初めての恋も、キスも、その先も、すべてを捧げるほどに恋い焦がれたその男性は……絶対に好きになってはいけない相手だった。
 
「ということで、始めようか」
 どこかいたずらっぽい、でもドキリとする妖艶な笑みで彼が言う。
「君のリクエストの極上の……一夜」
 柔らかで深みのある黒い瞳が迫ってくる。
(青墨で描いたみたい。すごく綺麗)

 青墨はその名が示すとおり青みがかった黒。祖父が水墨画家だった榛名清香(はるなきよか)には、なじみ深い色だ。うっとりと見とれていると、ふいに視界がくるりと回った。
 クラシックなシャンデリアを背負った彼がアップになる。客観的に説明すると、押し倒されたという状況だ。
「唇へのキスは? 禁止事項?」
 クスクスと楽しげに笑いながら、彼は言う。緊張と興奮に肩を震わせながら、懸命に声を絞り出す。

「キス……し、してほしいです!」
 大きく目を見開いたかと思うと、彼はぷっと噴き出した。清香の頬がみるみるうちに赤く染まる。おかしなことを言っただろうか。
「ご、ごめんなさい。図々しかったでしょうか。そしたら、キスはなしでも全然――」

 早口になった清香の言葉をのみ込むように、彼が唇を重ねた。