秘夜に愛を刻んだエリート御曹司はママとベビーを手放さない
「俺は仕事にならないな。ずっと君に見とれてしまいそうで」
 頬がかっと赤く染まる。
「あ、朝からナチュラルにそんな殺し文句を吐かないでください」
 アワアワと視線を泳がせる清香の顎をくいと持ちあげ、彼は甘い眼差しをそそぐ。
「清香のヤキモチ発言のほうがよっぽど殺し文句だ。ゆうべたっぷり楽しんだけど、また押し倒したくなってしまう」
「し、志弦さ――」

 唇が塞がれる。彼の舌が上唇をじっくりとなぞる。決して激しくはないけれど、淫靡で官能に火をともすようなキスだった。
「はっ」
 合間に漏れる吐息も艶めいていく。
「清香以外の女に興味はないよ。俺の瞳は君を映すためにあるし、唇は君だけを味わいたいと願ってる」
 どう考えても、志弦の台詞のほうが殺傷能力が高い。そう反論したかったけれど、彼の情熱に浮かされてしまって言葉にならなかった。

「このままずっと、たわむれていたいけど……」
 志弦は名残惜しそうに清香の身体を解放した。
「実は、今日からしばらくロンドン出張なんだ」
「えぇ?」
 意外な話に驚く。ずいぶん早起きだったのは、海外出張のためだったのか。
「しばらくって、どのくらいですか?」
「今回は準備期間だから、ひと月後に一度帰国するけど……そのあとは数年、向こうで仕事をすることになりそうだ」
(数年……そんなに長く?)
「た、大変ですね」
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