秘夜に愛を刻んだエリート御曹司はママとベビーを手放さない
 初めは柔らかいものが触れるだけだったのに、角度をずらしながら少しずつ深くなっていく。扉をノックするように、緊張でこわばった清香の唇を彼は舌先で刺激する。思わず「あっ」と声をあげた、その瞬間を逃さずに、彼は舌をねじ込ませる。明確な意思を持った生き物みたいに、それは口内で動き回った。

「ふっ、んん」
 二十七年生きてきて、初めてのキスだ。どうしたらいいのかなんてわからず、ただただ翻弄されるばかり。
 恥ずかしくてたまらないのに、頭がフワフワして心地よい。
「こら。ちゃんと呼吸しないと、酸欠になるぞ」
 教師みたいな口調で言って、彼は清香の薄い唇を解放した。

 はぁと大きく息を吐いて、彼を見つめる。瞳がトロンととろけていることなど、もちろん無自覚だ。
「よかったんですか? キス」
 声は消え入りそうにか細くなっていく。一夜をともに……となれば、当然キスもセットだろうと思っていたが、上級者にとってはそうではないのかもしれない。
(キスは好きな人とだけなんて話も聞くし……)

「君が嫌なら我慢するつもりだったが、許してもらえるなら、思う存分楽しませてもらう」
 そう言って、彼はもう一度唇を合わせた。甘く、激しく、キスだけでとろけきってしまうほどに。
「かわいいな。綺麗でかわいくて、ものすごく……いやらしい」
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