ぼくらは薔薇を愛でる

知る

 自警団の団長に連れられて、四人は街の中ほどにある宿に来た。そこで二人部屋をふたつ用意してもらい、久しぶりに風呂に入った。

「さっぱりしたら降りてきてくれ、食事を用意してるから」
 そう言われて降りていけば、食堂に多くいた客は半分ほどに減っていた。
「兄さん達、こっちだ!」
 先ほどの団長が四人を呼ぶ。彼のいるテーブルには食事がところ狭く並べられていた。
「酒は飲むか?」
「いや酒はいらない、果実水で頼む」
 大きな器に注がれる果実水。大皿には鶏肉を香ばしい味付けで焼いたもの、たくさんの野菜が煮込まれたスープやサラダ、煮込みなどが目の前に並べられていく。
「さ、どうぞ召し上がってください」
 たっぷりのお湯を使って風呂に入るのはもちろん、温かい食事も久しぶりだった。四人は口々にうまいうまいと言いながら食べすすめた。
 旅をしている間は、野宿が多かったし、お湯を満足に使えない農家に泊まらせてもらったこともあった。奮発して宿に、と思っても、旅装束だと眉を顰めるところもあった。久しぶりの風呂と食事を思い切り楽しんだ。

「お嬢様を助けてくれて本当に感謝している。俺たち自警団はもともとお嬢様を守るために作ったんだ。兄さんらが居なかったら今ごろは……と思うと旦那様に顔向けできなかった、ありがとう」
 食べていた手を休め、スプーンを置いてレグホーンが団長に聞いた。
「先ほどあなたは、『お嬢様がまた辛い思い』と言っていた。また、という事は今日のような事が過去にもあったのか?」
 レグホーンのこの質問で、食堂が静まり返る。

「な、なに、地雷だった?」
 マルーンが小声でゼニスに言った。酒を飲む手、しゃべる口を止めて、残っていた数人の客がこちらを向いた。

「いや……、まあ、いいか。おい、今日はもう閉店にしろ」
 団長の一声で店のスタッフは入口の暖簾を取り込んで戸をピシャリと閉じ施錠した。残っていた客達はいいのだろうかとレグホーンは思ったが、構わず団長が話し始めた。
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