こころが揺れるの、とめられない
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荷物を鷲掴んで美術準備室を飛び出したわたしは、涙を拭うことも忘れて、夢中で足を動かした。
昇降口に行くと、言った通りに、綾人が壁に寄りかかって立っていた。
わたしの足音で、こちらに気づいて——、
「は?」
驚いたように目を見開いた。
「っなに、お前。どうして泣いてんの……」
「なんでもない……っ」
「んなわけねーだろ。どうしたんだよ」
慌てて駆け寄ってきた綾人から、顔を隠すように俯いたけれど。
覗き込まれて、べしょべしょに濡れた頬に、手の甲で触れられる。
伝う涙を、ごし、と拭われた。
「なにがあった?」
「……」
「……言いたくねーの?」
ため息混じりに訊かれて、わたしは頷いた。
綾人が、さらに深く息を吐き出して、
「ったく、意味わかんねぇ……普通にビビる……」
戸惑いがちに頭に触れた手のひらが、ポンポン、とわたしをなだめてくれる。
綾人の上履きと向き合う自分のつま先をじっと見つめる視界の端で、知らない誰かの足が、いくつか通り過ぎていった。