円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
第11章 カインの嘆き
 ――時は少し戻ってカイン目線――


「それで?ネックレスを突き返されて、お兄様に罵られた挙句、逃げられたってわけね?」

 羽扇子で口元を隠しているため、どのような感情であるかは声色と目で推し量るしかないが、怒っているというよりは呆れている、そして面白がってもいる、といったところか。

「ステーシアちゃんの大胆に胸が開いたドレスとネックレス、見たかったわ」
 少し拗ねたように首をかしげる姿は、親子でそっくりだ。
 扇子の向こう側では、頬をぷくっと膨らませているんじゃないだろうか。
 
 17歳の息子がいるとは思えないほどのあどけなさを残しつつ、視線の動かし方や白くて細い指先の仕草にはしっかりと大人の色気もある年齢不詳の王妃陛下。
 そう、目の前の彼女は、この国の王妃でありレイナード王太子殿下の母親だ。 

「大変お綺麗でした。殿下は完全に釘付けになっていらっしゃいました。ナディア様を俺に押し付けて追いかけて行ってしまわれましたから」

「そして、ネックレスを持ってしょんぼりしながら戻って来たんでしょう?呆れた。不器用なくせにナディア嬢のことを助けてあげようだなんてするからよ。随分と拗れてしまったわね」

「申し訳ございません」
 深々と頭を下げる。
「殿下とステーシア様との関係は必ず修復させます。ですから、もうしばらく猶予をください」

 ふふっと笑い声が聞こえて、この人はやっぱり面白がっているんだなと思いながら顔を上げた。

「1年前はあんなに嫌々、仕方なく引き受けますって雰囲気だったのに、どうしたの?必死ね」

 どうしたもこうしたもないっ!
 必死になった理由は、レイナードのアホが婚約破棄になったら、俺まで婚約者に愛想尽かしされてしまうからだ。

 ねえ、カイン?わたしもう、ステーシアはこのまま婚約破棄になったほうがいいと思うの。
 あんな野暮天のお坊ちゃまに嫁ぐなんて、もったいないわ。
 ステーシアが国外追放になったら、わたしも一緒について行こうと思ってるの。
 え?あなたとの婚約?
 そんなの破談に決まってるでしょう。あなたの代わりはいくらでもいるけど、ステーシアの代わりはいないもの。あなたは一生、あのお坊ちゃまの面倒を見続けたらいいんじゃない?

 そう言われてしまったのだ。
 俺の婚約者のリリー・ダリルに!

 あなたの代わりならいるってどういう意味だ。
 冗談じゃないっ!

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