円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
第16章 その後
 その後、レイナード王太子の主導で「貴族としてあるまじき行為」を犯した家門への粛清が行われた。

 領地を全部、あるいは一部没収となったり、強制的に当主の代替わりを命じられた当事者たちにその理由を尋ねても、皆一様に口が重かった。

 議会で、度が過ぎた粛清だと噛みつく貴族たちを前に、王太子は臆することなく
「やましいことがなければ怖がることはないはずだ」と言い放ち、学のない山賊の覚書など信用できないと噛みつかれれば、彼らのメモがいかに緻密で丁寧に記録されたものであったかを語り、
「一般的に学がないゴロツキだと思われている山賊たちですら文字の読み書きができるというのは、我が国が長年にわたり力を入れて来た識字率向上政策の賜物で、とても誇らしいことだ」と言ってにっこり笑ったという。

 そして、キースというリーダーが率いていた山賊団は解散し、彼らのこれまでの犯罪は、王太子の婚約者の命を救った功績により恩赦となったことと、現在その一部の者たちが王室の諜報員として働いていることも明かされた。

「彼らは隠密行動に秀でている上に記憶力も良い非常に優秀な諜報員だが、先ほども言ったように、やましいことが何もない者にとっては害のない存在だから、安心してくれ」

 そう言って悠然と微笑む王太子に、ある貴族は新たな時代の到来を感じて胸を高鳴らせ、またある貴族は表情を凍り付かせたという。


< 179 / 182 >

この作品をシェア

pagetop