円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
第4章 悪役令嬢とは
 気持ちを落ち着かせるために行った図書室で不覚にもロマンス小説にはまり、さらにはレイナード様の本音まで盗み聞きしてしまったわたしは、心の中が大嵐のまま寄宿舎へと戻った。

 レイナード様が言っていた「こんなことになるとは思わなかった」というのは、わたしという婚約者がありながら他の女性を好きになってしまったことを言っているのだろう。「父に相談」は、婚約破棄の相談だろうか。
 それに対してカインがやや強めの口調で「お許しになるはずがない」と言ったのは、わたしのお妃教育がほぼ完了しているせいだ。

 お妃教育を通して、わたしはすでにあまり知られてはならない王室の秘密やナーバスな権力争いの現状なども把握している。
 そこで知りえた情報をたとえ家族であっても口外しないという誓約書に血判も押しているけれど、レイナード様のわがままで一方的に婚約破棄となってしまえば、こちらが予想外の仕返しをするかもしれない。
 だから、お妃教育を一通り終えているわたしをおいそれとは野放しにはできないのだ。

 わたしのことを「不憫」と言ったのは、陛下に婚約破棄を認めてもらえずにこのままわたしと愛のない結婚をすることに対して、わたしにことを気の毒がってくれたのだろう。
 彼は子供の頃から心の綺麗な優しい人だ。
 他の女性に心変わりしても尚、わたしのことを気の毒に思ってくれる情があるのなら、わたしもそれに報いなければならない。

 どうやったら上手く円満に婚約破棄を迎えられるのか――頭をフル回転させて考えても妙案はなかなか浮かんでこなかったが、ひとつ、これならいけるかも?と思う作戦を思いついた。
 しかし、これまでレイナード様と結婚する以外の選択肢を考えたことすらなかったのだから、その作戦が上手くいくかどうかもわからない。
 ここは、わたしとは全く違う人生を歩んでいる友人に相談するしかないだろう。

 そう決心して、寄宿舎の自室へと入った。
 
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