円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
第6章 タンクとは
 王立高等学院の生徒は、1か月間の長期休暇を利用して興味のある職業を体験できる制度がある。

 参加は自由であるため、マーガレットのように遠方から入学してきた生徒はたいてい里帰りしてしまう。
 マーガレットは、服飾実習で使用して余ったハギレをたくさんもらったから1年会わないうちに背が伸びたであろう弟と妹の服を作るのだと張り切って荷造りをしていた。

 リリーは、休暇中ずっと実家の書庫にこもって読書三昧らしい。


「わたし、騎士団の訓練の体験に参加しようと思っているの」

「うん、いいんじゃないか?毎年、女子生徒も参加しているから別に問題ない」
 長兄のレオンは、わたしと年が7つ離れていて騎士団に所属している。
 そして今年はラッキーなことに、レオンが体験訓練の指導員となっているのだ。

 騎士団の訓練体験はとても人気があって、毎年多くの生徒が参加している。

 騎士は子供たちの憧れの職業のひとつであるけれど、その中から実際に騎士団を目指す貴族の生徒はほとんどいない。ビルハイム家の子供と跡目を継ぐ可能性が極めて低い三男、四男ぐらいなものだ。

 だから、若い頃に訓練に参加したことがあるというだけで、ちょっとした箔になったりする。
 さらには、手合わせで本物の騎士である指導員に一撃を入れられれば
「筋がいいといわれたんだけどね、長男として家を継がないといけなかったから泣く泣く騎士になることは諦めたんだよ」
とかなんとか、武勇伝として一生自慢げに語ることができる。

 そういう「なんちゃってエンジョイ勢」とは一緒にされたくない。
 わたしはガチなんだから。

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