円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
第10章 騎士団の体験訓練・後半
 長期休暇の後半、事前に申し込んでおいた騎士団の体験訓練に再び参加した。
 もちろん、赤毛のアーシャ・ビルハイムとして。

 前半の体力づくり的な訓練とは違い、後半は野営訓練だった。
 早い話がキャンプだ。
 テントや食料を担いで山間の野営地まで行き、そこで2泊過ごして戻ってくる。

 平和な世の中である最近では、騎士のなり手がどんどん減っている。
 たしかに勤務は不規則だし怪我も多いし、上下関係は厳しいし、ブラックな職場だ。
 だからこの体験訓練・後半の部の野営訓練も、騎士団は楽しい職場ですよというアピールをするための単純で楽しいキャンプに――なるはずだった。


「ねえ、コンドル」
「なんだ赤毛」
 大きなリュックサックを背負って、後半の訓練にも参加したコンドルと並んで山を登っている。

「あなたきっと、コンドルとの相性がいいんだと思うわ。だからコンドルの羽を拾ったら魔導具科のルシード・グリマンっていう生徒のところに持っていくといいわよ。ヘタすると空飛べちゃうかも!」

「さっぱり意味がわかんねえけど、一応覚えといてやる」

 急勾配に差し掛かってコンドルは息が上がっているけれど、わたしは風のブーツ、カモちゃんのおかげで足取りが軽やかなままだ。
 あれからルシードとディーノには「そのブーツで本気で走らないこと!」と釘を刺されている。

 わたしとしては、残像が残るほどの速さで走り回って、回避系タンクだけでなく暗殺者(アサシン)としても使えます!とアピールしたいところだけれど、ルシードが処分されては大変だ。
 彼はきっと将来、この国を代表する偉大な魔導具師になるはずだから。

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