婚約者には愛する人ができたようです。捨てられた私を救ってくれたのはこのメガネでした。
プロローグ
「リューディア・コンラット。私との婚約を解消してもらいたい」

 突然王城に呼び出され、さらに呼び出された先が第一王子モーゼフ・デル・リンゼイの私室で、何事かと思ったら、()()()()()()だった。
 リューディアは何かを言わなければと口を開けるのだが、言葉が出てこない。何かしら言葉を紡ぎ出そうと唇を動かしても、出てくるのはハクハクとした息遣いのみ。

「まあ、お茶でも飲んで落ち着きたまえ」

 涼しい顔をしているモーゼフは、テーブルの上に置かれているお茶を差し出した。淹れたてのお茶は、ふんわりと柔らかい白い湯気を立てている。つまり、彼女がこの部屋に来てから侍女がお茶を淹れ、一礼した侍女が部屋を出て行ってすぐに、彼はそんなことを口にしたというわけだ。
 リューディアはけしてモーゼフの言葉に従ったわけではない。お茶を飲みたくなったから手を伸ばしただけ。
 紅茶の香りが鼻腔をくすぐる。相変わらず良い葉を使っている。こくんと一口飲めば、紅茶の香りと温かさが全身に行き渡るような感じがした。と同時に、冷静になる。
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