婚約者には愛する人ができたようです。捨てられた私を救ってくれたのはこのメガネでした。
6.
 モーゼフの隣にはフリートという女性がいる。モーゼフは彼女と結婚したがっているようだが、父である国王、そして母である王妃からの許可がまだ出ない。どうやら二人は悩んでいる様子。モーゼフとフリートの仲を認めてあげたらどうか、という声も少しは上がり始めているようだが、関係者を動かすにはまだ足りない。そう、まだ時間が足りていない。
 だからモーゼフは考えた。リューディアが婚約者であったとき、彼女はどのようなことをしていたか。それはフリートという女性を両親に、そして周辺に認めてもらいたいから。

「孤児院への慰問を考えているのだが……」
 モーゼフは自分の身体に寄り掛かりながら座っているフリートに向かって、そう声をかけた。彼女は今、美味しそうにチョコレート菓子を摘まんでいるところ。

「そう。いつなのかしら?」

「五日後を予定している。君も一緒に、どうだい?」

「いやよ。そんな汚らわしいところに私が行くわけないでしょう? あなた、一人で行ってきてちょうだい」
 そこでフリートはチョコレート菓子を口の中へ放り込んだ。
 モーゼフの心の中には、黒いもやっとした感情が広がった。リューディアであったなら、はにかみながら「喜んで」と答えてくれただろう。そしていつも、一歩半後ろを黙ってついてくるのだ。彼女は子供と触れ合うことを楽しみにしていた。そして、子供たちの将来を案じていた。そういう婚約者だったのだ、彼女は。

 なぜかここでリューディアのことを思い出したモーゼフは、少し頭が痛くなってきた。そんな彼の様子を、フリートは穏やかな笑みを浮かべながらじっと見つめていた。

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