天敵弁護士は臆病なかりそめ妻を愛し尽くす
第二章 厄日はつづくよどこまでも
第二章 厄日はつづくよどこまでも

「矢吹、ちょっといいか?」

 ある日、ミーティングルームで大量の資料を整理していると、壱生がノックもなく中に入っていた。

 しかし明らかに様子がおかしい。壱生は午前中外出していたので今日になって顔を合わせるのは初めてだ。顔が青白く声にもいつもの覇気がないし、キラキラオーラも半減している。

 ふらふらしながらこちらに歩いてくるので、急いで椅子を引いて座るように促す。すると壱生はすぐに椅子に座って机に顔を突っ伏した。

「あの、大丈夫ですか?」

 純菜は心配そうに顔を覗き込む。

「いや、大丈夫じゃない。ただ今から言う仕事だけは終わらせないといけないから手伝ってくれ」

「はい。すぐに持ってきます」

 純菜は壱生から聞いた案件の資料とノートパソコン、それと自販機でイオン飲料と栄養剤を買って急いでミーティングルームに戻った。

 それから壱生の指示のもと仕事を仕上げていく。結局終業時刻までかかってしまったがなんとか作業を終えることができた。

「あとは、家でやるから。おつかれ」

 言いながら立ち上がった壱生がフラッとなって、机に手をつく。

「鮫島先生っ! 無理なさらないでください。病院に行きますか?」

「いや、それより矢吹、お前犬好きだよな?」

「はい?」

 青白い顔の壱生に突拍子もないことを聞かれた純菜は目を見開き「本当に大丈夫なの?」と、わけのわからないことを言いだした壱生を心配する。

「それで犬は好きかって聞いてる」

 体調が悪いせいか、いつになくイライラしているように見える。

「はい。大好きですけど」

「だったら、帰る準備してついて来てくれ」

「え、なんで。え?」

 壱生は足をふらつかせながらミーティングルームを出ていく。純菜はそんな彼を放っておけるわけもなく慌てて追いかけた。

 ふらふらする壱生を支えてタクシーに乗り込んだ。到着したのは地上四十三階建てのタワーマンション。

低層階には商業施設となっていて駅にも直結するいわゆる富の象徴のようなマンションだ。

「ここって……」

「俺の部屋。とりあえずついて来て」

「え、でも」
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