禁断溺愛〜政略花嫁は悪魔に純潔を甘く奪われ愛を宿す〜
「子供好きなんですか? 俺もです」

なんて、その男のように声をかけるのは憚られる。なにせ俺の本職や潜入先は問題がありすぎた。
だから腹いせに、彼女に近づき不埒なことをしようとしていたその男を影に引きずり込み、執念深く余罪で逮捕したのは見逃してほしい。

もう会うこともないだろう。
そう思っていたのに、昨年末、運命は再び交差する。

「九條ぉ、九州のあの埠頭の倉庫群、どうにか手にいれらんねぇの?」

盈水會が誇る最大のフロント企業が入る、三十階建の自社ビル。
その上層階にある幹部だけが入室できるフロア内の会議室で、亜麻色の髪を今風の七三分けに整えた三十二歳の青年・深瀬が、煙草をふかしながら言う。
彼こそ、公安が危険視しているこの犯罪組織のトップだ。
彼はテーブルの上に両脚を投げ出したまま「調べてこいよ」と、こちらへ命じる。

九州となると、アジア経路の密輸拠点を増やして組織を拡大する狙いがあるのだろう。下っ端の部下を偵察に行かせないのは、現地の組織や団体との余計な抗争を避けるためか。
向こうには歴史の長い組が多い。そんな場所で面倒ごとに発展するのは、公安としても、盈水會幹部としても避けたい。
< 40 / 70 >

この作品をシェア

pagetop