ドSな天才外科医の最愛で身ごもって娶られました
「時間がかかりそうなら、私たちは病院からタクシーで帰るから大丈夫」

「いいのか?」

「大丈夫よねー。ついでに病院のお庭散歩しようね」

 もう少しで生後六カ月になるとはいえ、まだなにもわからない子どもたちはキャッキャとうれしそうに笑う。

「よし、じゃそうしよう」

 ふふ、うれしそう。病院まで子どもたちと一緒にいられるからね。

 相変わらず慎一郎さんは忙しい。丸一日この子たちが起きている時間と顔を合わせない日もあるから、忘れられちゃうんじゃないかと心配なようだ。


「なあ桜子。コルヌイエは赤ん坊大丈夫なのか?」

「もちろん大丈夫よ?」

「じゃあ、スイートに泊まろう」

「え? 今日?」

「すぐに帰れると思うし、コルヌイエなら近いから都合がいい」

 子どもたちの着替えとかオムツとか、準備はないのに。

「なんでも頼めば用意してくれるだろ? コンシェルジュがさ」

 ニヤリと笑う彼につられて、あははと笑う。

「そうね。泊まりましょうスイートに」

 私たちの出会いの場所。原点を、この子たちに見せてあげましょう。


 病院に到着すると、慎一郎さんは、ベビーカーの子どもたちの小さい手に指を握らせる。

「パパはちょっとお仕事してくるからな」

「いってらっしゃい」

 手を振りながら見送ると、彼は何度も何度も振り返った。

「パパはね、すごい人なのよ。天才外科医って言われているの」

 慎一郎さんは、最後に両手で手を振った。

 子どもみたいな彼にクスッと笑いながら、チビたちの手を上げて振り返す。

 彼が指差す空を見れば。
 青い空に飛行機雲が見えて、ハートの形の雲が見えた。

 とても、きれいな空で。

 キャッキャと手を伸ばす翼と翔に、空を指差して、
 幸せが心を満たしていく。

 ありがとう。慎一郎さん。
 私、あなたに出会えて本当によかった。




―終わり―

 
< 266 / 273 >

この作品をシェア

pagetop