ドSな天才外科医の最愛で身ごもって娶られました
慎一郎さんには言っていないが、氷室さんには何度か誘われた。
実は彼、同じ女性のお客様をお連れになることは滅多にない恋愛上級者である。
私のようなヒヨッコがお相手できるような方ではないし、社交辞令だとわかっているので右から左に聞き流していた。
「あっ、そういえば、このお店の名刺もらいましたね」
「そうだよ。全然来てくれなかったじゃん」
などと他愛ない話をしていると、カランカランとドアベルが鳴った。
慎一郎さんが来た。と思いきや、もうひとり知った顔が。
「あれ」と氷室さんが声を上げる。
「偶然そこで会ってさ」
私は慌てて椅子から降りて頭を下げた。
「花菱様、お久しぶりです」
花菱飛翔。お父様が国会議員でいらっしゃる実業家だ。
彼もまた氷室さんと並んで、俳優のようにお顔もスタイルもいい素敵な方である。
ただ、なんというか花菱さまには独特の迫力がある。漂う無敵感というか、殺されても死なないというか、そこが魅力という女性スタッフも多いが……。
彼も慎一郎さんと知り合いだったのね。
「あれ? 君は——」
「ん? なんだ桜子、飛翔を知ってるのか?」
隣に来た慎一郎さんが私の腰に手を回す。
「はい。花菱様は、コルヌイエのお客様なので」
「やっぱり夕月さんだ」
「もう夕月じゃない。彼女は朝井桜子だ」
花菱様は目を丸くする。
なにを聞いても驚かなそうな人なのに意外にも驚いたようだ。
「うわっ、マジか。シン兄の嫁?」