アラ還でも、恋をしていいですか?
プロローグ〜つまらない日々

 
「お願いです…好きなんです!ぼくを選んでいただけますか?」

真剣な声と眼差しに、どきん、どきんと心臓が壊れそうなくらい高鳴ってる。


知らなかった。男性がこんなにも力強くて、熱くて、かたく広い体を持っているなんて。

お日さまのような薫り。囁くような低い声。おおきな手は、離したくないと言うように私の背中にまわされてる。

私も、叫びたかった。


(私も……私も好き!あなたが…でも……)


私は還暦を過ぎた既婚者で、あなたはまだ20代の若さなのよ。



☆☆☆☆☆☆☆



(また、そのままか)

朝起きて台所に入ると、見慣れたけれどうんざりする光景が目に入った。

食べ散らかされた食卓、脱ぎっぱなしの上着やズボンや靴下、飲みっぱなしのビール缶とつまみの袋。

(体調悪くて早めに寝るから、片付けだけはしておいてって言ったのに)

ため息を着いたところで、勝手に片付くわけがない。とりあえず洗濯物を拾おうと屈んだところで、腰に激痛が走る。

「いたたっ……」

涙目で食卓の椅子を掴みなんとか踏ん張ると、今度は体重を掛けた右膝に鈍い痛みが起こる。

(サポーターをつけ忘れてたわ)

あちこちの痛みに耐えながら、洗い物を台所の流しの洗剤を入れた水に浸けておく。ひと晩経った皿や食器は乾燥しきっていて、油や食べかすがこびりついている。普通に洗っただけでは落ちないだろう。

(こんなに大変だってこと、あの人はわからないでしょうね。今まで皿一つ洗った事もないんだもの)

5歳上の夫、章(あきら)は何一つ家事をしないどころか、家の事はすべて私任せで無関心だった。


 
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