本当は

 目の前の二人に、私は何をどう言ったら、いいのだろう。

 目の前の二人。
 私の夫 央(てる)とその不倫相手という、私の隣に立つ男性の奥さん。

 ここは央さんの単身赴任先のマンション。
 
 私の妊娠がわかってからの転勤だったため、赴任3年目なのに、訪れたのは片手でも、余るくらいだ。
 央さんらしく、至ってシンプルで、全てがコンパクトにまとまっている部屋。

 央さんはお風呂を使った後らしく、お風呂は嫌いだからシャワーだと思うが、首にバスタオルを巻いて、それで濡れた髪の毛を拭いていた、、、まま、止まっている。
 自宅と同じで、パジャマにしているハーフパンツに、上半身は裸だった。

 「希美(のぞみ)。。。」

 私の夫 央さんに両腕を絡ませ、自分の上半身をピッタリとくっつけていた女性、名前はのぞみさんっていうのね。
 彼女に向かって、ご主人は地を這うような声で、名前を呼ばれた。

 私たちが何の前触れもなく現れたことで、固まったまま、呆然としている二人に、このご主人からの呼びかけは、その呪縛を解くかのように響いたらしい。

 奥さんは、央さんから腕を解くと、瞬時に離れた。
 央さんはここにいる私を見て、なぜ不倫相手のご主人と一緒にいるのか、理解をしていないようだった。

 私だって理解できていない。
 なぜ
ここに来たのか?いや、連れて来られたのか。
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