本当は
 だから、彼女が夫の転勤についいき、目の前からいなくなっても、喪失感も何もなかった。

 前田希美から、連絡も来ることもなかった。

 そんな彼女のことも忘れてしまった頃、美郁と見合いをして、結婚した。
 自分は結婚はしない。と思っていたのに。

 美郁の中に、俺を見たような気がしたから。
 しかし、美郁は俺のようにねじ曲がってはいない。静かだが、暗い性格なわけではない。頭も良かったが、それをひけらかすこともしない。自分というものをきちんと弁えている人間だった。
 陰の自分からしたら眩しいほどの、彼女の潔い姿。
 しかし、そこにある一筋の陰。
そこに、俺と同じものを見た気がした。

 そんな彼女との日々は、淡々とはしていたが、心地よかった。
 自分でも、他人との暮らしにここまで気が許せるのかと、正直驚いた。

 自然と子供のことも考えられるようになっていた。
 
 そんな中、
 美郁が妊娠して、一番体調が悪い時期に辞令が出た。
 初めての妊娠で、美郁も心細いだろうし、仕事も責任あるポジションにいたのがわかっていたから、自分一人で行くのが良いだろうと、単身で行くことを告げた。

 「そう、、、」

 と一言言ったきりだったが、時々様子を見に行ってもいいかしらと、尋ねた。
 そういう美郁を、愛おしいと思った。
 初めて人を恋する自分に、少々戸惑ったのは確かだ。
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