本当は

央の話 2

 転勤先の支社には、前田希美がいた。
 本社の時と違う部署に配属され、しかも、この1、2年の社内での自分の立ち位置に、彼女は不満を抱いていた。
 一度、再会を祝してという彼女の言葉で、一緒に飲みに行った。
 そこで、彼女は会社に対する不満をタラタラと話した。

 俺は、酔ってそういう終わりがないような話が嫌いだった。
 早々に切り上げて、翌日彼女から付き合いが悪いと、思いっきり詰られた。

 確かに、支社は旧態依然としたところがあり、できるやつほど、上の役職から足を引っ張られるか、自分の陣営に囲い込まれるかしかなかった。その中で、前田希美は仕事ができる女性ゆえ、閑職に追いやられるという理不尽さを味わっていたのだ。

 自分も任された仕事に手をつけたものの、上からクレームが入るは、余計な手を入れられるは、挙句にぐちゃぐちゃにされた案件をどうにかしろと、尻拭いを要求され、気持ちが腐っていた。
 久々だった。。。
 入社以来の理不尽さだった。そんなに嫌だったら、やめればいいものを、妻とこれからの生まれてくる子供のことを考えたら、自分勝手なこともできない。と思ってしまった。


 そのことが余計に自分の気持ちを澱ませていった。
いや、これは単なる言い訳だ。

 そんな俺を見透かしていたかのように、彼女に誘われた。
 一緒に飲みに行って。
 決していい酒の酔い方をしていなかった俺は、目の前にある快楽に溺れた。

 久しぶりの自分勝手な欲。

 刹那的なその場限りの、彼女との関係のはずだった。
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