エリート官僚は政略妻に淫らな純愛を隠せない~離婚予定でしたが、今日から夫婦をはじめます~
プロローグ

「澄夏……このまま抱きたい」

澄香を組み敷く夫の声は、なにかに耐えているかのように掠れていた。

いつだって冷静で決して心を見せてくれなかった彼が、今は強く澄夏を求めている。

夫の変化に戸惑うのと同時に、胸中に喜びが広がっていく。

(一哉さん……大好き)

愛する人に求められるのはこんなに嬉しいことだったのか。

夫は切なそうに目を細めて、澄夏の頬を撫で唇を合わせた。澄香はうっとりと目を閉じる。

そのとき不意に女性の声が脳裏を過った。

『私は須和さんを一人の男性として慕っています。もし奥様と離婚されるのなら恋人関係になりたいと思っているんです』

夫の同僚だという美しい女性が語った言葉だ。それは澄夏に大きなショックをもたらし、迷いを深くした。

(やっぱり私たちは離婚した方がいい)

愛する夫と離れるのは辛いけれど、それが彼にとっても自分自身にとっても最善の道なのだろうから。

(こうやって抱かれるのはこれが最後かもしれない)

そう思うと悲しみと切なさがこみ上げる。けれどそれもキスが深く激しいものになるにつれて、霧散した。

深い陶酔感に襲われ思考は靄がかかっている。

今夜の夫の愛撫は執拗で徹底的で、澄夏は彼の動きひとつに敏感に反応した。快感で零れる声の合間になにか口走っているような気がするけれど、もうよく分からない。

「澄夏……」

耳元で一哉がなにか囁いた。

ぼんやりとした目を彼に向けようとした瞬間、彼のものが澄夏の中に押し入ってきて、澄夏は悲鳴をあげて仰け反った。

「あ……」

それまで感じたことのないような激しい快楽にどうかしそう。

一哉が腰を動かし始めた。澄夏はただただ翻弄されて、いつ眠りについたのか分からないまま朝を迎えた。

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