クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
通じ合う
私が処置室に入ると、奎吾さんは一人で黒い丸椅子に腰掛けていた。
真っ白な包帯でぐるぐる巻きにされた広い背中が痛々しい。


奎吾さんの処置を終えて、廊下の待合席に出てきたドクターの話によると、右肩から背骨の真ん中にかけて裂傷があり、二十針も縫ったそうだ。
傷はそれほど深くなく、脊椎に損傷がなかったのが不幸中の幸いだと言われた。
でも、もし、ほんの少しタイミングがずれていたら……そう考えると、怖くて震えが止まらない。


気配に気付いたのか、奎吾さんがふと顔を上げた。
私を視界の真ん中に捉えると、


「凛花。長いこと付き添わせて、悪かった」


開口一番で、他人行儀に謝る。
どうして、また謝るの……。


夫が救急車で搬送された。
病院に駆けつけるのも処置が終わるまで付き添うのも、妻なんだから当たり前なのに。
そう。私は妻なのに、奎吾さんにこんな大怪我をさせてしまった――。


せり上がってくる嗚咽を堪えようとして、私はひくっと喉を鳴らした。
中まで入っていけず立ち尽くす私に、奎吾さんが困ったように眉尻を下げる。


「怖い思いをさせたから、怒ってるのか? 本当に、すまなかった」


繰り返される謝罪に言葉もなく、私は何度もかぶりを振るだけ。
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