クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
揺れ動く
結婚記念日まであと三日の今日、朝一番に来たのは女性のお客様だった。
二時間ほどで中西先生の部屋から出てきて、事務室の前を素通りして、出入口に歩いていった。


「ありがとうございました」


私は席を立って、事務所のドアまで見送りに出た。
彼女は、ドアを左手で支えて送り出す私を、チラッと一瞥した。
そして、自分の左手に目を落とし、「どうも」とだけ言って去っていった。


ショートボブがよく似合う、きちんとした身なりの、頭のよさそうな女性。
彼女の頬が、紅潮していたのが気になった。


「……?」


私を見た目も赤かったし、泣いた後かもしれない。
一体どんな相談だったんだろう……。
一瞬詮索しかけて、私は「ふう」と息を吐いた。


どんなもなにも、とても困っているから、この法律事務所を訪れたのだ。
私は気持ちを切り替え、事務室ではなく給湯室に立ち寄った。
トレーを胸に抱きしめて、中西先生の部屋に向かう。


「先生、お片付けに参りました」


二度ノックしてから、ドアを開けた。
すると、立派なデスクの前に置かれた年季の入った応接セットのソファに、中西先生と菜々子さんが並んで座っていた。
二人とも脱力しきって、天井を仰いでいる。


「? ……お疲れ様です」


私はちょっと怯んだものの、ぎこちなく笑って室内に進んだ。
テーブルから、三人分の茶托と湯呑みを片付けようとすると。
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