公爵の娘と墓守りの青年
序章
「お願い……死なないで……!」

懇願にも聞こえる悲鳴でカエティスは目を開けた。
目を開けると、涙を流す女性が自分の顔を覗き込むように見下ろしていた。

「お願いだから……」

尚も懇願するように女性はカエティスの手を握る。違和感を感じた。
いつもなら穏やかな笑顔、澄んだ声の女性なのに、今は涙を流し、声を震わせて悲しげに自分を見つめている。

「……綺麗な顔なんだから、泣くなよ……」

思わず、声にしてしまった。もっと別のことを言おうと思っていたのに。
カエティスの言葉に女性は白に近い水色の目を見開いた。
流れていた涙が少しだけ止まる。

「カエティス!」

「……そうそう。泣かない方が良いよ……」

微かに笑い、カエティスは女性を見た。声が掠れてしまい、あまり格好良くないなと思いながら。

「……ごめんなさい、私のせいで……」

彼女のその一言でカエティスは自分の死が近付いていることが分かった。
死が近いと悟った途端、ほとんど記憶の底にまで沈めた思い出が溢れた。
色々と思い出しながら、カエティスは口元に静かに笑みを浮かべる。

「――謝るなって。俺の意志でこんなになってるんだし。君のせいじゃないよ」

微笑もうとしたが、失敗してしまった。辛うじて動く右手でうっかり胸を触ってしまい、カエティスは顔をしかめた。
胸にはぽっかりと穴が開いていて、ぬるぬるとした温かいものが右手に付く。
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