それは手から始まる恋でした
我が儘
 港と高良を引き合わせてから1週間ほど経ち、心なしか会社での高良も角が取れている。というか心ここにあらず。

 陵という友達と飲みに行ってからこんな感じだ。一応毎日手を触ってくる。でも触っているだけだ。話しかけてもう~んとかふ~んとか。港のことが尾を引いているのだろうか。

 もうすぐ高良の誕生日だが、欲しいものを聞いても何もいらないとしか言わない。何とか聞き出した答えは「休み」だった。

 高良は土日も仕事をしている。私が高良の代わりに仕事するので休んでくださいと言いたいが、まず無理だ。私は彼の唯一欲しいものさえ与えられない。

 高良の誕生日は平日だった。
 私はスイーツ好きの高良にスイーツビュッフェで気分をリフレッシュしてもらおうと会社帰りに有名なパティシエの店を何軒か回ってスイーツを調達してきた。今日はスイーツがメインなので夕飯はさっぱり軽いものを用意していた。

 だが待てど暮らせど帰ってこない。

 もしかして今日は実家に帰ったのかとも思ったが、そういう時は事前に連絡が来る。

 今日は会社にも来ていなかったので何時に帰ってくるのか分からない。
 私はスマホを取り出して高良に電話を掛けようとした。その時玄関の扉が開いた。

「お帰り。遅かったね」

 リビングを出て私が一番に見たものは高良じゃなかった。

「穂乃果……さん?」
「お邪魔します! まぁ、あの時の。そうだったんですね。あなたが」
「波野紬さん。俺の彼女。絶対に親父に言うなよ」
「分かってるって」

 私が分かっていない。一体全体何が起きているのでしょうか。

「――ということで今日から暫く穂乃果はここに住むことになった。なるべく両家に知られずに解決したいそうだ」
「よろしくお願いします」

 穂乃果さんは旦那さんに愛人がいることを知ったそうだ。それもクリスマス翌日、愛人からの宣戦布告。

 旦那さんは穂乃果さんとの結婚が決まった直後、愛人との関係を始めたそうだ。旦那さんは穂乃果さんの父親が経営している会社で働く将来有望な社員だった。そして愛人は会社の部下。最低最悪な状況だ。
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