それは手から始まる恋でした
リセット
「港、本当にごめん」
「いいって。遅かれ早かれ来ると思ってたから。でも想像より早かった」

 私は高良の家を出てのこのこと港の家に来てしまった。

「すぐに部屋探すから」
「仕事ないのにそんなに簡単に部屋借りられないよ。安心して僕は襲ったりしないし、ずっといてくれてかまわないから。何なら結婚する?」
「冗談キツすぎ。ちょっと前の私なら真に受けてたよ」
「あはは。真に受けていいんだけどね。まぁ、家賃代の代わりに毎日添い寝ね」
「何それ。仁みたいなこと言って」
「あいつと一緒にしないで」

 港の声が低くなった。怒っている。

「添い寝は無理」
「じゃあ手を繋いで寝よう」
「なんでさっきから寝る事ばっか」
「だってだって、今までできなかったでしょ。ここぞとばかりにオファーしてるの」

 なんだこの可愛さ。目をキラキラさせながら訴えてくる。少し合わないうちに港の可愛さが倍増している。いや毎日ドーベルマンばかり見ていたから久しぶりのトイプードルに心が癒されているのか? あっちも可愛かったが、こっちは可愛さは最強だ。

「それより仕事まで休ませちゃってごめんね」
「そりゃあんなに泣いて電話してくる紬なんて初めてだから放っておけないでしょ」
「港の声聞いたらつい」

 私も穂乃果さんと同じだ。信頼している相手の声でほっとして我慢していたものが一気に吐き出された。

「オアシスだから水が溢れちゃったか。ほらおいで」

 港は両手を広げている。今にもその胸に飛び込みたい思いを私は必死で堪えている。

「本当に強情なんだから。なんで仁ちゃんのこと好きなのに別れたの?」
「だって、ずっと好きだった人とやっと気持ちが通じ合ったんだよ。結婚したから諦めただけでまだ絶対好きだよ」
「仁ちゃんは好きじゃないって言ってるのに紬は仁ちゃんを信じないの?」
「それは誤魔化してるだけで」
「誰かに言われたの? 紬の頭でそこまで考えられるかな? あはっ。その反応は誰かに言われたんだね。まあ僕にとってはいい方向に転んだからいいけど、紬も早く仁ちゃんのこと忘れなよ」
「うん」
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