CROSS LOVELESS〜冷たい結婚とあたたかいあなた
冷たい現実


結婚式自体は盛大なものだった。

入念な打ち合わせもしたし、リハーサルは何度も通していたから身体が憶えている。

まるで、機械人形になったようだった。

身体に染み付いた動きが、意志と関係なく勝手に出てくる。

控えめな笑みも、幸せそうな花嫁として振る舞うことも、難なくこなせる。

自分を押し込め、仮面を被る。
いつもどおりに。



結婚式が終わった後は、隣接するホテルに泊まる手配がされていた。
多忙を極める玲さんのスケジュールの都合で新婚旅行はいけないから、せめてラグジュアリーホテルで疲れを癒やしてほしい…という意図らしい。

(疲れたわ…本当に)

すっかり日が落ちた夜の9時。ようやく落ち着いた私は、ゲストルームのソファに身を沈めた。

自然と、大きなため息をついてしまう。

(美香も幸せそうだった…でも)

一体どういうつもりで、美香も玲さんも結婚式当日にあんなことを?

いくら私が無知で世間知らずでも、2人が非常識な事をしたのだ…という認識くらいはある。

私も美香も、沢村家の籍に入った。これからはそれぞれの妻として家を守り、夫を支えて沢村家をもり立てていかなければならないのに…。

それに、子どもだって…

“必ず跡継ぎの男の子を産むんだぞ!”

「わかってますわ…お父様…私は…そうしないと、きっと…必要とされないのですもの」

早く、早く…子どもを、男の子を産まねば…私の存在価値がなくなってしまう。
だから、私はまた目をつぶる。自分にとって都合が悪い事実に蓋をして。



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