CROSS LOVELESS〜冷たい結婚とあたたかいあなた
それぞれのかたち
「いい加減、滑稽な茶番劇は止めてもらえますか?」
それほど大きくは無いのに、よく通る蓮さんの声で騒ぎはピタッと止んだ。
「茶番劇…?なんの話だい、蓮?」
「玲……いや。蓮。いい加減、オレの立場を返してもらおうか」
蓮さんが、玲さんを蓮と呼んでいる?
一体どういうことなのかわからなくて、頭が混乱する。
蓮さんの言葉が本当ならば、蓮さんは玲さんで。玲さんが蓮さんということになる。
蓮さんが玲さんの代わりを演じていたことも、関係あるの?
(そうだわ……そういえば沢村のお義父様は、蓮さんを玲さんと躊躇いなくよばれてらしたわ。
実の父親ですもの…幾ら双子でも、息子が入れ替わればおわかりになるわよね)
「え、蓮くんなに言ってるの?蓮くんは美香の旦那さんの蓮くんでしょう」
美香が近寄ると、蓮さんの腕にギュッとしがみつく。上目使いで瞳を潤ませて…大抵の男性なら、庇護欲が擽られるだろう。
(羨ましい…美香が。こんなふうに堂々と彼に甘えられて…当たり前よね、正式な妻だもの)
今、私の心の中は美香への嫉妬と羨望と…醜い感情でいっぱいだ。
もしかしなくても…蓮さんに抱かれて彼の子を身籠った。夫婦なら当然…私が妬む資格もない。
子が欲しくて蓮さんに抱かれた、裏切り者なのだから。
でも、蓮さんの口から美香へ出たのは。
「触るな、淫売」
という冷たい声だった。