友達、時々 他人
6.思いがけない救いの手



 龍也はいつも、私の気持ちを一番に考えてくれた。

 強引に押しかけて来て世話を焼いても、私の仕事をじゃなすることはしなかったし、気分じゃないと言えば触れなかった。

 私にとって龍也は、セフレである前に友達で、セフレであるからこそ他人。

 いつか、龍也に結婚したい相手が現れた時、友達に戻れるように、恋人ではなくセフレにこだわった。

 けれど、最近ではその境界が曖昧になってきて、それでもいいやと思ってしまう自分がいた。だから、今度のことは私にも責任がある。

 龍也が勇太に過剰反応するのを知っていて、再会したことを話してしまった。いつもは行かないのに、わざわざ彼の家に行ってまで。

 間違いだった。

 龍也だけじゃない。

 私自身、彼とセフレでいるのは限界だった。

 じっとしていると龍也のことを考えてしまうから、私は朝から少し早い大掃除をしていた。とは言っても、たいして広い部屋でもないし、ごちゃごちゃと物を置くのも好きじゃないから、ちょっと念入りな掃除をしたのと、引っ越しに備えて夏物の服を旅行バッグに詰めたりしただけ。

 翌日、千尋から電話がきた。

『龍也と一緒?』

「ううん?」

『行ってもいい?』

 ランチの誘いなんかはあるけれど、家に来るのは珍しい。

 私は食材の買い出しもしたいからと、駅前のスーパーで待ち合わせすることにした。

 昨日は部屋にこもっていたから、風が強いな、くらいにしか思わなかったけれど、かなりの強風だったらしく、道路は湿った落ち葉で埋め尽くされ、滑らないように気を付けなければならなかった。

 もうすぐ、冬だ。

 トレンチコートやフリースなんかじゃ寒くなってきた。



 今年は新しいコート、買おうかな。



 ぼんやりとそんなことを考えていたら、スーパーの前の坂で、危うく転びそうになった。

 どこから電話してきたのか、千尋はすでに店内にいた。押しているカートの上のかごには、お菓子やジュース、酒、つまみが山積みになっていた。

「どうしたの?」

「別に? 選べなくって」

 私はもう一つカゴをカートの下の段に載せて、出来立てのピザや冷凍パスタ、カップ麺なんかを放り込んだ。

 エコバッグを二枚は持って来ていたけれど、足りるはずもなく、一枚五円の袋を二枚買った。

 千尋と二人で両手に袋を持ち、落ち葉の上を歩いて帰った。

「引っ越すの?」

 部屋に入るなり、千尋が情報誌を見つけて言った。龍也が見たのとは別の、新しいもの。

「うん」

「龍也と暮らすとか?」

「――まさか」

「何かあった?」

「……何かあったのは千尋でしょ?」

 短い沈黙。

「飲むか」

「……だね」

 テーブルにピザやつまみを広げ、私たちは缶ビールと缶チューハイを開けた。

「で? 日曜なのに龍也がいないのはなんで?」

「……先週の日曜にさ――」

 誰かに聞いて欲しかった。けれど、話せる相手は千尋しかいなくて、その千尋が目の前にいたら、そりゃ洗いざらい話してしまうに決まっている。

 勇太と再会したこと、メールがきていること、龍也との関係が変わりつつあったこと。
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