お見合い婚にも初夜は必要ですか?【コミック追加エピソード】
7.お見合い婚の幸せなその後



待ち合わせは水族館の中。

雫がそう指定するので、仕事あがりの俺はまっすぐに都内の水族館へ向かった。平日夜の水族館は空いていて、入場券は並ばずに買えた。夏季は二十一時まで営業しているとのこと。現在時刻は十九時半だ。

入館してすぐに雫に電話をかけたが、出なかった。どこでなんの魚を見ているのだろう。広くはない水族館だけど簡単に見つかるわけでもない。
穏やかな音楽の流れる暗い通路を俺はひとりで進んだ。水槽は煌々と光り、照明の役割も果たしている。どの水槽も中の魚たちはのんびりと泳いでいた。砂からのぞく白くてまだらの長細い魚、あれはなんと言ったか。雫がキャラクターっぽくアレンジされたグッズを持っていたような気がするんだが。あとで聞いてみよう。
イワシの水槽だけはスピード感がある。ぐんぐんと群れで水槽を周回するイワシの間から、コブダイが無骨な顔を現した。迫力があるので、ちょっと驚いた。

都心の小さな水族館だ。土日はきっと家族連れでごった返すのだろうが、平日夜は人もまばらだ。客層は女性のグループか、カップルのデートといったところか。ネクタイこそオフだが、半袖シャツにスラックスの会社員スタイルでひとり水槽を眺める俺は、ちょっと浮いている。そんな気がする。
通路が開け、大水槽が右手に見えたところで雫からメッセージが入った。

【カフェテラスにいるから来てね】

今いる地点からだと、引き返した方がカフェに近そうだ。人も少ないし、順路逆走でも障りはないだろう。
入ってきた自動ドアを抜け、入り口を左手に見ながらまっすぐ進むと、アザラシとオタリアの水槽が見えた。大きな水槽がひとつと中庭のような陸上スペースがひとつ。アザラシのショーに使えそうな客席ベンチ付きの広場もある。

目を引くのは空中に設置された円形の水槽だ。駅の広告やポスターでこの水槽は見知っていたけれど、実際に目にするのは初めてだ。ここをアザラシが泳ぎ回り、それを下から眺められたら壮観だろう。しかし今の時間帯、アザラシは水槽のスペースにいるようだった。
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