妖怪ホテルと加齢臭問題(天音と久遠)

紅葉旅館とは


記憶の中の母は、美しかった。
若い頃の写真は女優さんのようだ。

祖母は<小町>と呼ばれるほど、
この界隈で有名な美人だった。

三代目の天音(あまね)は
濃紺のスーツ姿で腕組みをして、
旅館の玄関に立っていた。

これから来る客を、もてなさねばならないのだ。

三代目女将(おかみ)として、
この紅葉(くれは)旅館の、
最初で最後の仕事だ。

その客とは
この旅館を買う目的で、
視察に来る人。

仲介の不動産屋の話では、
外資の大手ホテルチェーンと、
関連する会社らしい。

敷地だけは広いから、
家屋はブルドーザーで、ぺしゃんこにつぶして、
新しいリゾートタイプのホテルにするのではないか・・

と、やり手にはとても見えない、
純朴な地元の不動産屋の
おっちゃんは、話をしていた。


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