男装獣師と妖獣ノエル ~騎士団で紅一点!? 幼馴染の副団長が過保護です~
1章 ホノワ村のラビィ
 エルドワース地方は、王都から離れた緑豊かな土地である。

 土壌に恵まれ、平地では穀物や野菜、果樹も豊富に育ち、家畜の飼育数も多い。自然が多い地域ほど狼や熊などの被害があるため、獣師との付き合いも、自然と生活の中に溶け込んでいる。

 獣師とは、動物と人間が共存出来るよう手助けする人間の事だ。

 害獣から畑や家畜を守り、飼育されている動物の躾や教育、相談等も行う。

 地域の環境によって動物も異なるのと同じように、獣師によって扱える獣の種類も様々だった。古来より大陸に根付く害獣については、国も慎重に対応しており、対害獣の看板を持った獣師は非常に少ない。

 多くある獣師が取り扱う動物については、人々の生活に親しい馬や犬や猫となっている。特に、犬は番犬にもなり家畜の誘導にも適しているため、それを専門とする獣師がほとんどだった。農村地域では重宝されるから、農家あれば獣師あり、と生活に根強く浸透している。

 エルドワース地方の奥に存在するホノワ村は、郵便も週に一度しか届かない田舎だった。山脈から続く森には、害獣に指定されている狼や熊が多く生息している。

 ホノワ村は、害獣対策として森から離れた平地に構えられていたが、隣町へと続く通りを進んだ、村外れの森境には、一軒の小さな家が建っていた。

 昔、その家では、過去に都会からやってきた夫婦が薬師として活躍していた。彼らが他界してからは、一人の少女が細々と薬草販売の看板を掲げて薬草師をしており、獣師としても、少ない仕事をこなし生活していた。

 初夏という事もあり、村の朝は比較的早く訪れる。

 郵便荷物を積んだ馬車がやってくる時刻、早朝一番に薬草を探しに森へ入っていた、薬草師兼獣師の少女が、ようやく我が家が見える場所まで戻って来た。
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