冷徹御曹司は過保護な独占欲で、ママと愛娘を甘やかす
プロローグ



甘くてスパイシーなムスクが香った。彼が使っているオーデコロンは、控えめで普段はほとんどわからない。その香りが今、間近にある。

「こちらへ」

クイーンサイズのベッドを前に足を止めた私。彼―――笛吹豊(うすいゆたか)はベッドに腰掛け私を見つめていた。ダークブラウンの瞳に、真意は見えない。

「嫌ならやめる。奥村明日海(おくむらあすみ)、別にきみに咎があるわけでもない」
「いえ、弟がかけたご迷惑ですから」
「だからといって、こんなことを許すのか。俺の八つ当たりであるのはわかっているんだろう」

豊さんはふっと笑った。普段はツーブロックにセットされている髪が、少し濡れて額と涼しげな目元にかかっていた。シャワーを浴びたせいだ。

「専務の……豊さんの気が少しでも晴れるなら……」
「そして、奥村フーズ株式会社と父親を守れるなら?」

私は詰まり、それからこくりと頷いた。
豊さんが目を伏せ、それから腰をあげる。ベッドの手前で立ちすくむ私の腕をぐいと引いた。

「弟の不始末と親の会社を守るため、専務に抱かれるか。健気なことだ」
「自分でベッドに行けます」

そう言ったものの、横抱きに抱き上げられてしまった。普通の体型の私を軽々と抱えられる体躯と膂力に驚き、そして甘い香りに全身がしびれた。
私はこれから豊さんに抱かれる。
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