冷徹御曹司は過保護な独占欲で、ママと愛娘を甘やかす
番外編 笛吹豊の恋の記録



今日、結婚式を挙げた。
愛する妻と愛娘と三人、家族に囲まれた式だった。

明日海と未来は、今ベッドでぐっすり寝ている。妙に目が冴えて、俺はひとり冬の夜のベランダに出ていた。感慨深い気持ちだった。

やっとたどり着いた幸せの通過点。
明日海と再会したとき、こんな日を迎えられるなんて思いもしなかった。

今から二年以上前、俺は恋した明日海を手に入れておきながら、見失った。彼女とその娘を見つけ、紆余曲折を経て今日を迎えることができた。
平坦な道ではなかったけれど、三人で愛を誓えた喜びは、生涯忘れられないと思う。



***



俺の青春時代は、あまり色鮮やかなものではなかった。
母の病がわかったのは、俺が中学二年のとき。
悪い部分を切除すれば予後は良好と聞いて始まった闘病だったが、術後も母の調子は一進一退。俺が高校にあがった年に再発が告知された。

『大丈夫、大丈夫』

母は気丈な人だった。本人が一番不安だろうに、平気そうな顔をして、俺の前ではいつも笑顔だった。父の仕事関係のパーティーや会食も可能な限り参加していたし、闘病中であることは周囲には悟らせなかった。
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