冷徹御曹司は過保護な独占欲で、ママと愛娘を甘やかす
2.愛娘



青々と茂った木々。木漏れ日の中を歩いても、こめかみから汗がつうと伝う。
夏が盛りに近づいている。娘のベビーカーを押しながら、そう感じる。

ベビーカーを覗き込むと、シートベルトをうざったそうに手で引っ張っている娘と目が合った。

「ままぁ」
「はーい、なんですか。未来(みく)ちゃん」

私は娘に微笑む。

「ちゃいちゃい」

ちゃいちゃいとはなんだろう。さっき遊んだ公園で、暑い、暑いと私が言っていたからだろうか。
未来は一歳三ヶ月。私の可愛いひとり娘だ。
朝涼しいうちから公園でたっぷり遊び、スーパーで買い物をして帰るところである。

「あっついねえ。もう七月かあ」

私は青い空ともくもくとした雲を見上げ、ふうと息をついた。
自宅は最寄り駅から徒歩十分の立地にある古い木造の二階建てだ。昔、祖父母が住んでいた家で、ふたりが亡くなってからは両親が管理していた。私はこの家で未来とふたり暮らしをしている。妊娠中に移り住んだので二年近くになる。

未来をベビーカーから下ろし、荷物を冷蔵庫にしまった。それから汗びっしょりの未来とシャワーを浴びた。着替えてお昼の準備を、と思っていたらスマホが振動を始める。

「もしもし、藍(あい)?」
『明日海、今大丈夫?』

電波の向こうから大学時代の友人、寺田(てらだ)藍の声。私は未来をちらりと見る。お腹が空くと大騒ぎするこの子、今はご機嫌でプレイマットで遊んでいる。

「少しなら。これから未来とごはんなの」
『あ~、そっか、もうお昼時だね。ごめんごめん、詳細メールにするわ』
「ありがとう。お仕事回してもらってるのにごめんね」

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