冷徹御曹司は過保護な独占欲で、ママと愛娘を甘やかす
1.弟の駆け落ち



私、奥村明日海の人生は平々凡々という言葉がよく似合う。

奥村フーズという冷凍食品の会社を経営する父と専業主婦の母のもとに生まれ、ふたつ下の弟と仲良く育った。中小企業の社長令嬢というのは、一般人と大差ない。学校は中学まで公立だったし、日々の生活にも身なりにもセレブ感はない。

私個人にはこれといった取柄もなく、夢中になれる趣味もない。中肉中背の普通体型、特徴のない顔立ち。小学校から大学まで、成績はいつも真ん中。

だから大学を卒業し、笛吹製粉株式会社に入社したときは、ありがたすぎて申し訳ないくらいだった。
父の奥村フーズはこの笛吹製粉の傘下企業なのだ。私が入社できたのは、そういった関係もあると思うけれど、その分揶揄されないように私は仕事に励んだ。
入社三年目の初夏、私は二十五歳になり、配属先の総務部で順調にキャリアを重ねていた。

毎日が楽しいのは、仕事にやり甲斐を持っているから。……だけではなく、私には憧れの人がいた。

笛吹製粉の専務である笛吹豊さん。現社長の息子で、三十一歳。
大学時代に父について参加したパーティーが最初の出会いだったと思う。挨拶したとき、彼は礼儀を欠かない最低限の受け答えで去って行ってしまったので、格好いい人だという印象しかなかった。しかし、その後何度か会ううちに自然と目で追うようになっていた。
なんでも、凄まじく仕事のできる人らしい。
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