不倫の女
第2章 不倫の終わり
 裕太さんは自信を失った結果。
 
 ある日を境に仕事に来られなくなった。
 
 心療内科で診断を受けて、二ヶ月の間休むことになった。
 
 休む前から、事あるごとに裕太さんは、私と二人きりでいるときに「死にたい」と口にするようになっていた。

 一酸化炭素中毒で自殺する方法を検索したり、そのための道具を買いに行こうか迷ったり、と私に語った。

 愛する人に自殺したいと言われて、悲しくならない人はいないだろう。

 私は裕太さんに生きていて欲しいです。

 何度もそう告げた。何度も何度も。

 それを聞いて裕太さんは、少し安心するような表情をしてくれた。
 
 でも、それは一瞬のことだった。

 私からの想いを確かめるように、何度も自殺をほのめかして、私は疲弊した。

 あのときの裕太さんには、私が疲弊していることに慮るような余裕はなかった。
 
 そもそも余裕があったら、自殺の意思など抱かない。

 あなたが苦しい裏側で、私も苦しいってことに気付いてほしかった。

 あなたが死にたいと口にする度に、
 私がどれほどの無力感を抱いたか知ってほしかった。

 でも、そんなことを考えられないぐらいに、追いつめられていたんだよね。

 ごめんなさい。

 その無力感から、私は裕太さんとの関係性に疑問を抱くようになっていった。
 
 疑問というより、自信を失った、という方が正しいかもしれない。

 一緒にいても、自信をつけてあげられることができない。

 むしろ、一緒にいるからこそ自信を失ってしまうのではないかって考えていた。

 万が一、会社の人たちに、私たちの関係が知られてしまったら――

 きっと、この人はもう生きていられなくなるだろう。

 決して離れたいわけじゃない。
 
 できることならずっとこのまま――

 でも
 何よりも
 彼に生きていて欲しい。
 
 次に会ったときに、この関係性に終わりを告げよう。

 彼の未来のために。
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