断罪された公爵令嬢は元婚約者の兄からの溺愛に囚われる

10.ガタガタと揺れる馬車の中で

(あれ? わたくし何をしていたんだっけ)

 ガタガタと揺れる音。硬い床。もしかして馬車……?
 身体を動かそうとすると、どうやら縛られているようで、身動きが出来ない。

(そうだわ。わたくし皇城で、皇弟殿下に薬を飲まされて、気絶したんだ)

 ひとまず状況が分かるまで、寝ているフリをしましょう。急激に緊張が走って、心臓が苦しいほど鼓動している。

 ――ルナ、大丈夫だったかしら。やっぱり屋敷に引き戻せばよかった。

 愛猫への心配でいっぱいになる。ルナを屋敷に返すためにも、此処から抜け出さなくては。

 近くに人の気配はない。きっと御者席に、一人か二人位がいるのかしら。

 恐る恐る薄目を開けると、やはり近くに人はおらず、馬車の荷台に乗せられているようだった。

 後ろ手で拘束されていて、足首もロープで結んであることを目視で確認出来た。
 服装はそのまま。太ももを擦り合わせると、護身用ナイフが取られずに括り付けられていた。

(よかった。武器はあるから、最悪戦えるわね)

 一体何処に向かっているのか気になるが、窓がついていない馬車のようなので、外の様子を見ることが叶わない。それに薄暗いから、今が昼か夜かも判断がつかない。

 馬車から飛び降りても負傷してしまうかもしれないし、直ぐに気がつかれるだろう。最悪殺されるかもしれない。何処かに到着したらにする? 

 皇妃教育で、習った誘拐時の対処方法を必死に思い出す。
 そうだわ。今自然と行っていたように、まずは情報収集が大事だった。御者達の会話が聞こえれば、何が目的か少しは分かるかもしれないけれど。
 あいにくと全然話していない。もしかして、一人でわたくしを運んでいるのかしら。

 目隠しされていなかったし、武器も取られなかったことが不幸中の幸いだわ。
 ドレスも脱がされていたら、脱走の難易度が増してしまうし。現状チャンスがあれば逃げることが出来るかもしれない。

(しかしハーゲン皇弟殿下は、なぜわたくしを誘拐したのかしら)

 やはり、実の息子である、イーサン元第二皇子を、皇帝にさせるため……?
 そうしたら、自分の思う通りに政治を行わせることが出来るものね。

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