初恋の味は苦い

下心

名古屋では有名なのか、狭い店内にギュッと人が詰め込まれたような空間。祥慈と私は座敷のテーブルを挟んで座っていた。

「鶏の刺身だって」
「えーなんか怖いな」

祥慈が嬉々として提案するのを私は冷たく却下する。

「大丈夫なんじゃない?メニューだし」
「これで二人とも当たったりしたら、どうすんの」
「面白いじゃん、俺食べたことないもん」

座布団にあぐらをかきながら、祥慈はすっかりくつろいでワイシャツのボタンを外す。

「まずは生だね、飲む?」
「ビールかあ」
「ビール飲まないんだっけ」
「分かったよ、飲むよ」

そんなことを言ってるうちに、祥慈は袖を雑に捲り上げた右手をあげ、店員を呼び止めた。

「生2つと、鳥刺しと、焼き鳥の盛り合わせと、サラダと」

祥慈はさりげなく鳥刺しを注文した。少し彼を呪う。

「いいよ、俺が全部食べるし」

そう言って鼻歌を歌い出す。

「まだ5時前だよ、まだみんな働いてんのに酒飲んじゃって最高だね」

祥慈は嬉しそうにメニューを再度見直し、それから表情のトーンを一気に暗くし「鶏肉ばっか」と当然のことを愚痴った。

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