【コミカライズ連載中】姉に婚約者を寝取られたので訳あり令息と結婚して辺境へと向かいます~苦労の先に待っていたのは、まさかの溺愛と幸せでした~

三章 変化


いつもと違う天井を見上げて、一瞬動けずに固まっていた。

(そっか……もうデイナント邸じゃないのね)

可愛らしいウッド調の家具は安心感があるが、侍女達の声が聞こえないのは少し寂しく感じた。

カーテンを開いて窓から見える緑の景色が目を癒してくれる。
鳥の囀りが聞こえて、窓を開けると冷たい風が吹き込んでくる。
驚いたのは空気が澄んでいて、とても気持ちいい事である。

桶に水を汲みに向かい、たどたどしい手付きで顔を洗った。
これも屋敷では侍女が当たり前のようにやってくれていた事だ。

勿論、運ばれてくる紅茶も軽食もない。
着替えも身支度を整えるのも自分一人でやらなければならない。
侍女の有難さを噛み締めたところで、此処には誰もいない。

(一応、平民の生活について勉強してきたけれど、大丈夫かしら……?分からないところは、マーサさんに聞いて早く一人で出来るようにならなくちゃね)

こうなると分かっていた筈なのに時間がなかった為、十分な準備も知識も蓄えないまま来てしまった。
その事が悔やまれる。

冷水で顔を洗いながら気合いを入れる為に自分の頬をパンと叩いた。

(覚えることは沢山あるわ……!)

頼れる人もいない。
後戻りも出来ない。
だからこそ自分の力だけで頑張るしかないと思える。
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