妹と人生を入れ替えました~皇太子さまは溺愛する相手をお間違えのようです~

4.華凛と憂炎

 翌日、わたしは父様と一緒に宮廷へと向かった。


(相変わらずデカい建物だなぁ)


 鮮やかな色彩の荘厳な建物。国の中心に鎮座した城は、至極立派で近寄りがたい。とはいえ、子どもの頃は無鉄砲だったから、探検と称して憂炎と一緒によく遊びに来ていた。


(結局中に入ることは一度も無かったけど)


 あの時憂炎はどんな想いで宮廷を見上げていたのだろう――――そう思うと、胸が痞えるような心地がした。


「さすがのおまえでも緊張するのか?」


 わたしの顔を見ながら、父様がそんなことを尋ねる。か弱い見た目をしているが、華凛は柳のようにしなやかで強かな娘だ。珍しいと受け取られたのだろう。


「もちろんですわ」


 答えながら、ブルりと武者震いがした。


(考えてみたら、悪いことばかりではない)


 妃とは違って、官女は自由が利く。どこに出掛けても構わないし、皇帝にも東宮にも操を立てる必要はない。お給金も貰えるし、仕事中は華凛の侍女達に入れ替わりがバレるんじゃないかとビクビクする必要もない。
 元々、スローライフを楽しむなんて柄じゃないし、人生は刺激的な方が楽しいと思う。こんな形で仕事を得られたのは、結構ラッキーなことなのかもしれない。

 それに、下手すりゃ二度と会えないと思っていた憂炎と会えることだって嬉しいことだ。妃とか、妻として接しなくて済むのならそれで良い。わたしにとってあいつは、一番の親友だったのだから。


(まぁ、言いたいことをポンポン言えない息苦しさはあるかもしれないけど)


 それは華凛と入れ替わった以上仕方がないことだ。
 これから数年を掛けて、『華凛』をわたし色に染めていく。それまでの間は、妹の考え方、立ち居振る舞いをなぞって生きていかなければならない。
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