妹と人生を入れ替えました~皇太子さまは溺愛する相手をお間違えのようです~

12.手紙

【初めまして。後宮生活には少しは慣れたかしら?】



 好意的な出だし。手蹟は上品で、良い香りのする麻紙を使っている。一見して怪しいところはない、何の変哲もない手紙。
 だけど、この手紙からは、持ち主の怨念のようなものを感じる。見ているだけで身体が震え上がるような、おぞましい何かが。


 手紙の贈り主は皇后――――憂炎が隠匿される原因となった人物だ。
 嫉妬深く、権力欲にあふれた女性。彼女のせいで、現皇帝の子は憂炎一人しかいない。


(全く。国を滅ぼす気か! って話よね)


 憂炎が生まれていなければ、この国は大きく揺らいだだろう。治める者が居らず、内乱が起こり、他国から攻め入られる事態に陥っていたかも知れない。
 そんな簡単なことすら考えられないあたり、わたしは皇后とは関わり合いたくない。手紙だって、出だしを読むだけで十分。まともに読む気なんか無かった。


「陛下から『必ずお返事を貰ってくるように』と申し付かっております」


 だけど、遣いの宦官が青褪めた表情でそんなことを口にする。きっと、返事を渡さなければ、酷い折檻を受けるのだろう。
 ため息を一つ、仕方なく、手紙の続きを読むことにした。


【陛下に子が居るとは、夢にも思いませんでした。誰も教えてくれないんですもの。あなた方一族が、皇太子を隠し、育てていたんですってね。お優しいこと。さっさと後宮に戻せばよかったものを】

(おえっ)


 これぞ『後宮』。恨みったらしいったらありゃしない。読んでて胸焼けのする内容だ。
 こんな手紙を書く人間を皇后に据えたままなんだもの。皇帝には威厳が足りないんじゃなかろうか。


【あなたが妃になるのは、当然の采配でしょう。直接お会いできる日が楽しみです。先の宴で場を設けるから、そのつもりで】

(宴、ねぇ)


 憂炎からそんな話は聞いていない。だけど、皇后がわざわざこんなことを書いて寄越すんだもの。わたしの出席は間違いないのだろう。


「誰か、筆と紙を」


 どうやら皇后は、憂炎とその妃――――わたしのことが大層お気に召さないらしい。
 己の地位を脅かす可能性がある存在。種から取り上げ、芽すら出ないよう気を揉んでいたというのに、彼女の目の前にはもう、立派に育ち上がった憂炎が居る。


(摘ませるわけがないでしょう?)


 だったら、すべきことは一つ。抗戦の意思を明確にすべきだ。


(――――でも)


 【おとといきやがれ】と書いてやろうとした所で、わたしはふと手を止めた。
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