妹と人生を入れ替えました~皇太子さまは溺愛する相手をお間違えのようです~

14.皇后からの贈り物

 背筋をビリビリとした緊張感が走る。
 振り返ることは決して許されない。けれど、そこに存在する確かな威圧感――――皇后だ。

 チラリと見えた皇后の姿は、年の頃、母と同じ位。しっかりと施された化粧。真っ赤な紅が、余計に年齢を感じさせた。
 ほんのりと丸みを帯びた艶やかな――――と言えば聞こえは良いけど、ようは締まりなく年老いた――――身体を豪奢な衣装で包み隠し、幾つもの宝玉で全身を華やかに彩っている。

 片や、彼女に全てを吸い取られたかの如く、他の妃達は実に落ち着いた出で立ちだった。目立てば最後。狭く逃げ場のない後宮で、徹底的にいびり抜かれるのだろう。


(そんなに睨むなってんの。こっちは睨み返せないんだから)


 こっちは格下の東宮妃。当然だけど下座に座る。偶々目が合った、なんてシチュエーションは存在しないのだから、やるなら意図的に――――喧嘩を売るという形になってしまう。


「失礼いたします、東宮妃さま」


 その時、宦官の一人が目立たぬように声を掛けてきた。あの日、皇后の手紙を届けてくれた人物だ。
 彼女のお気に入り――いびり対象という意味での――なのか、今日も遣いに寄越されたらしい。顔が青ざめ、ブルブルと震えている。



「皇后さまから贈り物を賜っております」


 そう言って彼は毒々しい色合いをした茶菓子を差し出してきた。小さな目配せ。静かに振り返れば、至極凶悪な微笑みが、こちらをそっと見つめていた。


「東方由来の一つしか存在しない貴重なものなれど、他ならぬ東宮妃さまに召し上がっていただきたい、との思し召しです」

(ふぅん……なるほど)


 一通り食事を終えたこのタイミングで、相手はひと戦仕掛けてきたらしい。
 ご丁寧に『一つしか存在しない』『わたしに召し上がっていただきたい』なんて警戒心を煽りつつ、こちらが慌てる様子を楽しみたいらしい。


(さて、どうしたものかな)


 他ならぬ皇后からの贈り物だ。毒見を挟むだなんて無粋な真似をすれば、不敬だ云々と騒ぎ立てるに違いない。衆人環視の中、ふりをするというのも難しそうだ。正直言って、わたしに食べる以外の選択肢はない。
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