妹と人生を入れ替えました~皇太子さまは溺愛する相手をお間違えのようです~

19.再び、後宮

 『凛風』に対する憂炎の想いを知った数日後のこと。
 わたしは久しぶりに、後宮に来ていた。


「姉さま、良かった。もう二度と来て下さらないかと思っていましたわ」


 人払いをした部屋の中、華凛がそう口にした。
 苦笑が漏れる。わたしだって本当は、二度とここに来るつもりはなかったんだから。


「元気そうで良かった。あの日はバタバタして、碌に話もできなかったし」

「はい。姉さまも元気そうで何よりです」


 そう言って微笑む華凛は、以前に増して美しく見える。薔薇色の頬に、鮮やかな唇。寵妃とはかくあらんという風貌だ。


(憂炎の愛情をちゃんと受け取ってるってことかなぁ)


 だとすれば、今日、わざわざ出向いた甲斐があった。大きく深呼吸をし、わたしは華凛に向かい合う。


「それで、今日来た理由なんだけど」

「はい!」


 華凛は満面の笑みを浮かべつつ、ずいと身を乗り出した。どこか興奮した面持ち。珍しく前のめりなその姿勢に、わたしは小さく笑った。


「まずはこれ。武官たちから『華凛』宛の贈り物を受け取ったの」


 そう言ってわたしは、武官たちから受け取った贈り物を卓の上に広げていく。
 後宮で身に着けても遜色ない品々。今の華凛には必要ないかもしれないけど、武官たちの努力と気持ちだけは伝えてやりたいと、こうしてわざわざ持ってきたのだ。憂炎や白龍の目を盗んで彼等に会いに行くのは骨が折れたし、報われてほしいと切に思う。



「まぁ……! 皆さん本当に贈ってくださったのですね」

「うん。多分めちゃくちゃ奮発してくれたんだと思うよ」


 華凛は瞳を輝かせつつ、宝玉で彩られた簪を手に取り眺める。どうやら喜んでもらえたらしい。ほっと安堵のため息を吐く。


「ふふ……どのような形であっても、人の好意とは嬉しいものですわね、姉さま」

「……うん、そうだね」


 嘘だ。
 だってわたしは、憂炎の気持ちなんて知りたくなかった。

 あいつがわたしを好きだなんて――――そんなこと、知っても苦しいだけで、素直に嬉しいなんて思えない。応えられない気持ちを受け取ったところで、良いことなんて一つもない。


「それでね、華凛にお願いがあるの」

「はい、何なりと! 憂炎のことでございましょう?」


 華凛は嬉しそうに微笑みながら、わたしのことを見つめている。何がそんなに楽しいのか――――ため息を一つ、わたしは大きく息を吸う。


「うん。あのさ、華凛――――『凛風』として、あいつの想いに応えてやってもらえないかな?」

「……え?」
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