妹と人生を入れ替えました~皇太子さまは溺愛する相手をお間違えのようです~

20.こころ

「凛風」


 わたしを呼ぶ切なげな声音に、ピタリと重なった熱い身体。貪るように唇を何度も奪われて、息すらまともにできない。
 折れるんじゃないかってぐらいキツく抱き締められ、同じように抱き返すことを求められる。わたしは憂炎に向かって、必死に手を伸ばした。


「好きだ、凛風」


 だけどその時、これは『わたしじゃない』ってことに気づいた。

 『凛風』として想いを打ち明けられた経験なんて、わたしにはない。こんな風に抱かれながら、好きだと言われたことなんて、一度もなかった。


「憂炎、わたしも」


 唇が勝手に動く。憂炎の瞳が揺れて、揺れて、それから唇が嬉しそうに綻ぶ。
 重なった唇が塩辛くて、それなのに物凄く甘くて、あぁ、想いが重なったんだなぁって感じる。

 だけどわたしは。
 わたしのこころは。

 声にならない悲鳴を上げ続けていた。



 目を開ける。わたしは華凛の寝台の上に居た。
 朝の光が眩しくて、小鳥の囀りが耳に優しくて、あぁ、さっきのは夢だったんだなぁと気づく。


(夢だけど)


 夢じゃない。
 きっとあれは、華凛の瞳を介して見た現実なのだろう。ただの夢にしてはあまりにもリアルだった。
 身体がめちゃくちゃ熱いし、心臓は未だにバクバク鳴り響いている。頬は先程流れ落ちた涙で濡れていた。


(行きたくないなぁ、仕事)


 今日は憂炎に会いたくない。だけど、ずっと避けて通るわけにもいかない。
 休んだところで家に来られたら困るし、こんなことで自分を見失うわけにはいかないもの。


(行かなきゃ)


 瞼をごしごし擦りながら、わたしはゆっくりと起き上がった。
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