妹と人生を入れ替えました~皇太子さまは溺愛する相手をお間違えのようです~

24.【番外編】俺の欲しいもの

 凛風は昔から、俺にとって、太陽みたいな存在だった。

 後宮から奇跡的に連れ出され、俺は凛風の従弟として育てられた。

 明るくて、屈託のない笑み。クルクルと大きく変わる表情。
 負けず嫌いで、意地っ張りで、泣き虫で、それから優しい。
 自由を愛する心。愛らしい顔立ち。
 
 全部、全部好きだった。

 いつか、凛風と結婚する――――そう心に決めて、俺はありとあらゆる努力をしてきた。
 勉強も、武術も、何もかも。

 あいつは、俺が負けず嫌いだって思っていたみたいだけど、そうじゃない。
 俺は凛風を守れるだけの男になりたかった。そのために、あいつより強くなる必要があったってだけだ。


 数年後、皇太子として宮廷に戻るよう、皇帝からお達しがあった。
 即位と同時に、妃を一人娶る必要がある。

 迷うことなど微塵もない。
 俺は、凛風を指名した。


「俺の妃になって欲しい」


 そう伝えた時、凛風は物凄く驚いた。
 無理もない。俺が皇子であることは、一部の人間しか知らない極秘事項だった。凛風であっても――――あいつの身を危険に晒さないためにも――――秘密を打ち明けることは出来なかった。

 凛風は、俺の妃になることをハッキリ拒んだ。無理だと、そう口にして。
 だけど、そんなことは想定の範囲内だ。最初から諦めるつもりなんてない。

 かくして、俺は宮廷へ。そして凛風の入内の日を迎えた。
 楽しみだった。凛風と結婚できることが。
 あいつを自分のものにできるその瞬間を、俺は心待ちにしていた。


「本当に憂炎は勝手だな」


 真っ白な花嫁装束に身を包み、少女が眉を吊り上げる。だけどそれは、俺が望んでいた人物――――凛風ではない。


「華凛――――どうしておまえがここに?」


 開いた口が塞がらなかった。そこまでして、あいつは俺と結婚したくなかったんだろうか?
 ショックで言葉を失った俺に、華凛は気の毒そうに肩を落とした。


「どうして分かりましたの? 今までどんなに入れ替わっても、誰にもバレたことがございませんでしたのに」

「分かるに決まってる。惚れた女のことぐらい、見分けられなくてどうする?」


 凛風は俺の太陽だ。姿かたちは同じでも、喋る内容をどんなに似せていたとしても、華凛とは根本的に違っている。


「まあ! そうですか。……だけど憂炎、姉さまは頑固なお人です。迎えに行ったところで、きっと入内を拒みますわ」

「そうだろうな」


 あいつの反応は、容易に想像ができる。
 だけど、どうしても――――俺は凛風が欲しい。他の女じゃダメだ。凛風だけ。俺の側に居て欲しいのに。


「凛風は『華凛』として過ごしているんだな?」

「ええ。自由が欲しいと、そう申していましたわ。ねえ、憂炎。わたくしでは、駄目ですの?」


 華凛が俺へとしな垂れかかる。凛風と全く同じ顔をして。
 けれど、俺の心が揺れることは無い。


「無理だ」


 入内までの間にも、『華凛ではダメなのか』と散々尋ねられた。申し訳ないと思わないでもない。
 けれど、俺が欲しいのは凛風だけだ。他では全く意味がない。


「分かりましたわ」


 華凛は困ったように微笑んだ。物わかりの良さは、彼女の美徳だ。
 小さくため息を吐き、すまないと口にする。


「でしたら、憂炎に知恵を授けますわ」

「知恵?」

「ええ。姉さまを手に入れたいのでしょう?」


 華凛はニッコリと笑みを浮かべる。
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