真面目系司法書士は年下看護学生に翻弄される

優菜のアパート

「鍵も壊されてるし、うちも警察沙汰とか困るのよ。もう半年だけって言っても水商売の人って男連れ込んだり家賃滞納したりで迷惑。あんたも何度か家賃遅れたことあったでしょ？保証人もいないんだからさっさと出ていって。近所の人からもクレーム出てるから。今週中には何とかしてね」

朝部屋に戻るとアパートの大家さんが部屋の前で待ちかまえていた。
家賃を1か月滞納しているのは事実で今回林さんから借りたお金で支払おうと思っていた。

「本当にすみませんでした。今すぐ支払いますので……」

「いや、もう家賃はいいから、出てって。そこの彼氏？んとこ行けばいいでしょ」

大家さんは林さんを指さして彼氏といった。

部屋の片づけを手伝うといって林さんはついてきてくれた。
乗り掛かった舟だし、鍵の修理が終わるまでうちにいてもらって構わないから、とまたも菩薩のような事を言ってくれる。

さすがにそこまでは面倒を見てもらう訳にはいかないと言ったが、林さんは昨日の優菜の『初めての関係』にかなり責任を感じているらしく引かなかった。

その様子を見ていた林さんは、

「大家さん側からの一方的な立ち退き請求でしたら通常は６ヶ月前に通達を行い、立ち退き料を支払ってもらわなくてはいけませんよね。失礼します。私は司法書士の林と申します」

林さんは穏やかな顔で名刺を差し出し、大家さんに自己紹介した。


「は？」

大家さんは虚を突かれたような表情で林さんを見つめている。

「家賃不払いなどを行った場合には裁判所の強制執行もありえます。ですがそこまで滞納しているわけではありませんし、遅れてもきちんと支払っています。出るところに出れば大家さんの方が金銭的に損をする可能性がありますね。時間もかかりますし……」

「とにかく、さっさと出ていったら文句言わないから。原状回復とかもいらないから……その裁判とかそんな大ごとじゃないのよ」

最後の方はなんだか小声になってそのまま大家さんは階段を駆け下りていった。