真面目系司法書士は年下看護学生に翻弄される

自動車教習所



自分だけ先に退院し家で赤ちゃんを迎える準備をしていた。
毎日少しずつは大きくなっているが、おなかの中で育つのに比べ保育器の中で育つスピードは随分遅い。

未だに朝陽の父親が誰なのか思いだせなかった。すっぽりそのことだけ私の頭の中から抜け落ちたようだった。
看護師の試験に合格したことも、生活のために水商売のアルバイトをしていたことも覚えているのに、なぜか父親が誰なのか思い出せなかった。

衝撃的な何かがあって、脳が思い出すことを拒否している。思い出さなくてもいい記憶は、そのままにしておいていいのではないかと兄は言った。

子供の病院に行くために毎回工場の社長の奥さん(弥生さん)の車に乗せてもらうのは気が引ける。
弥生さんは気にしなくていい、孫のようなものだからと言ってくれるけど、やはり気が引ける。毎日のことで田舎では交通のアクセスも良くない。主にバスを利用しているが、優菜は子供が病院にいる間に運転免許を取ることにした。

育児をするわけでもなく、働いているわけではないので、比較的時間は取れる今がチャンスだと、目指すは最短1ヶ月での免許取得だ。

「今の時期は学生はみんな授業があるから比較的空いてて助かるよね」

昼ご飯のお弁当を食べながら、隣に座っている男の子が話しかけてきた。

「……そうですね」

彼は平日のこんな昼間に教習所に通えるんだから、無職かフリーターだろうなと優菜は思った。
自分も「今何をしているのか?」と聞かれれば、無職と答えるのが正解なのだろうか?

たまに見かける同じ年齢の女の子たちがキラキラ輝いていて眩しい。学生さんなんだろう。お洒落なカフェの話や大学の授業の話アルバイトの話、合コンの話サークルの話羨ましいなと思った。

親の援助のもと楽しく学生生活を送れる人たちが世の中にはいる。自分はまだ21歳だが彼女たちと同じではない。
両親はなく、シングルマザーとして強く生きなければならない。子供のために人生を捧げなければならない。それが嫌なのかと言われれば、正直分からない。

無責任な行動が及ぼした結果なのだ。
未だに朝陽の父親が誰なのか、思い出せない。
受け入れ立ち向かわなければならない。それが私の運命。
朝陽の父親が誰であろうが朝陽は私が命がけで産んだ大切な子供だ。




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