真面目系司法書士は年下看護学生に翻弄される

新しい職場



林さんの教え方は丁寧でわかりやすかった。一応女性として気を遣ってくれているのか、一定の距離を保って接してくれているようだった。セクハラ発言はなかったし、ベタベタ触ってくることもない。

けれど重い書類などは運んでくれるし、ドアも必ず開けてくれる。
女性扱いされて少しうれしかったし、林さんがシングルマザーのくたびれた自分に気を遣ってくれている事に感謝したい気持ちでいっぱいだ。

子どもを産んでから社会とのつながりが途絶え、お化粧してお洒落して外に出かけることも少なくなっていた。もちろん子供がメインの生き方に不満があるわけではないが、女としての大事な部分を忘れてしまっていた自分に反省だ。仕事を始めてよかったと思った。


「車の運転に気を付けて、女の子のドライバーは甘く見られるから注意してね」

林さんは私の車の運転をいつも心配しているようだった。通勤ラッシュ時間をさけて混雑しているようだったら遅刻してもいいからと、上司の鏡のようなことを言ってくれた。


仕事は受付業務や電話対応。郵便物の発送などの他、簡単な入力や市役所への問い合わせなどが主だった。

「そうだね、大体同じような物を使い回せば簡単な作業だから……そうそう。僕が作ってある雛形に名前変えて打ち込めばいいよ」

林さんが横に来て丁寧に指導してくれるので仕事はとても捗った。林さんはいつも身綺麗にしていて懐かしいような、良い匂いがした。

隣の美容院に勤めている美容師の女性が林さんを見かけるといつも声をかけてくる。時間もないのに10分ほど話している。今度ご飯を食べに連れて行ってくださいよとか、商工会の集まりで飲み会があるとか、商店街のイベントがどうとか。

奇麗な女性に言い寄られて林さんは満更でもないのか、いつもニコニコと相手をしていた。

歳上の男性がモテるのは世の常。特に経済状態などを後押ししてか、あの美容師さんも年を重ねていって落ち着いた雰囲気の林さんをターゲットにしているのかもしれない。


「ん?」

ずっと林さんの匂いを嗅いでしまっていたのか、「なにかある?」と言いたげに林さんが優菜を見たので、何でもないというように首を振った。
< 58 / 71 >

この作品をシェア

pagetop