おひとりさま希望の伯爵令嬢、国王の命により不本意にも犬猿の仲の騎士と仲良くさせられています!

第29話 嫉妬と謝罪 ※ラルフside

 目の前には、地に頭がつくんじゃないかというほど深々と頭を下げたロイド。そしてその隣には、心配そうな顔をしたヒルデが見守っている。


「ラルフ、本当に済まなかった! つい、頭がカッとなってしまって……ケガは大丈夫か?」
「もういいよ。ただ、俺がケガをした分お前たちは上手くいったんだろうな?」
「……」


 ロイドとヒルデは二人で顔を見合わせて、真っ赤になって微笑み合っている。あんなしょうもない茶番劇を演じさせられたのだ、二人には上手くいってもらわないと困る。


「ラルフ、協力してくれてありがとう。おかげでロイドにも嫉妬心があるんだということを確認できて良かったわ」


 ヒルデはロイドの腕につかまって、満面の笑み。そっちは上手くいって良かったな。こっちはボロボロだけど。


「それで、貴方はマリネットとは上手くいってるの?」
「……うまくはいってない」
「えっ……! ラルフ、お前やっぱりマリネット嬢のことを好きだったのか?!」


 申し訳なさそうに頭を下げていたロイドは、細い目を一生懸命丸くして驚いている。さっきまでの謝罪の気持ちはどこへ行ったんだとイラついた俺は、ロイドを軽く睨みつけた。


「そうよ。ラルフ、私たちも何か協力できることがあればしたいわ。何かないかしら?」
「私たち、か。いっそのこと、すぐにでも結婚してしまえよ。それはさておき、ジーク様の婚約者はシャドラン卿のご令嬢で決定なのか?」
「……ええ、まだ三歳だから正式な婚約はしないけれど、一応婚約者として内定という形にはなっているのよ。なぜ?」
「いや……。ちゃんと身元は調査したんだよな?」


 低い声で尋ねた俺に、ヒルデは何かを察して真剣な目つきに変わった。ロイドの腕から手を放し、一歩こちらに近付いて来た。


「ラルフの言わんとすることは分かるわ。シャドラン卿が以前にマリネットと婚約していたのに一方的に破棄した件についてよね」
「そうだ。なぜシャドラン卿にそんな過去がありながら、何も咎められずにヴィアラ・シャドラン嬢が婚約者に内定しているのか不思議だった。国に二人の婚約の記録も残っているだろうに」
「それが……クライン公爵が婚約破棄の件を覚えていたので、過去の記録を探したのだけどね。前国王陛下の事故と、あのお二人の婚約破棄の時期が重なっていたようだから、その混乱で有耶無耶になってしまったんじゃないかと思ってるの」
「そうか。ジーク様がヴィアラ嬢を婚約者に希望している以上、正式な記録もなしに過去を蒸し返すのも難しいということか……」
「ラルフ、詳しく聞いてヒルデを困らせるな。いくら陛下の護衛騎士と言えど、知っていい情報と悪い情報がある」


 ヒルデの言う通り、国王陛下の事故はマリネットの婚約破棄の一件の翌月か翌々月くらいのことだったように記憶している。
 マリネットとシャドラン卿の正式な結婚はなされなかったから、社交界の人間は二人の婚約のことはほとんど知らない状態だったものの、婚約の際に国王陛下には直接ご挨拶をしていたはずだ。彼らも二人で王城を訪れただろうし、その時の記録も本来ならば残っているはず。


「シャドラン卿の令嬢を王城に迎え入れることは、マリネットにとっては辛い状況だと思います。でも、婚約破棄が正式な手続きに則ってなされたものなら、何の罪にも問えないのよね」
「確かに、ただ外聞が悪くなるというだけで、それを理由にヴィアラ嬢の婚約をどうこうする話でもないな」
「ねえ、ラルフ! マリネットが心に負った傷はラルフが癒してあげればいいと思うの! だから早くマリネットに想いのたけを伝えたらどう? あれ……でも、もうこっぴどくフラれたんだっけ?」
「……!」

 こっぴどくフラれてはない……と思っている。しつこいと思われるかもしれないが、まだ俺は諦めていない。
 
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